〇カタトニアとは?
精神運動の顕著な障害が特徴。昏迷のような精神活動の著しい低下から、常同症や外的刺激によらない興奮といった活動性の病的な亢進まで幅広い複雑な臨床像を呈する。
〇関連する疾患は?
我が国のDSM-4-TRの緊張病性病像の基準を満たした50人の検討*では、統合失調症および他の精神病性障害23人(46%)、気分障害17人(34%)、身体疾患による精神障害10人(20%)という結果だった。
〇診断は?
DSM-5の診断基準では、12項目のうち、3項目を満たせば診断。
① 昏迷
② 焦燥感
③ しかめ面
④ 無言
⑤ 拒絶(周囲の指示に対する抵抗や無視)
⑥ 蝋屈症(他人が体を動かすと抵抗があるがゆっくりと動く)
⑦ カタレプシー(与えられた姿勢を保ち続ける)
⑧ 姿勢保持(自発的・能動的に姿勢を維持する)
⑨ 衒奇症(わざとらしい奇妙でおおげさな動作)
⑩ 常同症(反復的で異常な頻度の目的指向のない動き)
⑪ 反響言語(他人の言葉を真似する)
⑫ 反響動作(他人の動作を真似する)
〇悪性カタトニアとは?
発熱や自律神経失調を伴う。悪性カタトニアは悪性症候群との関連も示唆される病態であり、より迅速な治療が必要である。
〇合併症は?
25%以上に深部静脈血栓症が発生したという報告**もあり、弾性ストッキング、間欠的空気圧迫法、抗凝固薬の使用を検討する。
〇治療は?
悪性カタトニア惹起の可能性があるため、定型抗精神病薬は中止にする。
・非悪性カタトニア
Bz受容体作動薬低用量(ロラゼパム2-4mg相当)から開始。無効であれば4-8mg程度まで増量し、数日で改善しない場合はECTを導入する。
非定型抗精神病薬は、注意深い臨床的観察のもと投与を試みてもよい。
・悪性カタトニア
治療が遷延することで合併症の危険性が高まることから、Bz受容体作動薬高用量(ロラゼパム4-8mg相当)の投与と同時にECTの開始が考慮される。
非定型抗精神病薬は使用すべきでない。
Bz受容体作動薬は投与スケジュールの調節によりECTの臨床効果発現に大きな影響はないとする報告もある。
〇治療率は?
Bz単独で治療されたカタトニアでは、70%が寛解し、そのなかでもロラゼパムで治療した場合79%が寛解した***と報告あり。
<精神科診療プラチナマニュアル第3版のプラン>
Bzを使用する。カタトニアが改善した後、漸減・中止する。
抗精神病薬の一時的な中止を検討する。
処方例)下記のいずれか
・ロラゼパム 1日量1-3mgを分2-3
・ジアゼパム 1日量10-30mgを分2-3
重症例やBzで十分に改善しない例では、ECTを行う。その際、Bzが使用されていればフルマゼニルをECTの直前に用いることを検討する。
速やかな改善を得るためにはBzの静脈注射を検討する。
鎮静に至る最低量で済ませるべく静脈注射は2分以上かけて緩徐に行う。呼吸抑制が生じる可能性に備えてバッグバルブマスクとパルスオキシメータ、フルマゼニルを準備する。静注中止後1時間は慎重に経過をみる。
処方例)
・ジアゼパム 5mg1A 緩徐に静脈注射
効果が不十分であれば、繰り返すことも検討するが、その際には呼吸抑制の可能性により注意する。
参考文献
徳谷晃「統合失調症・カタトニア(緊張病)の薬物療法での位置づけは?投与のタイミングは?」薬局2024 Vol.75 No.13 p92-96
* Hatta K, et al : J ECT, 23 : 233-235, 2007.
** Ishida T, et al : Psychiatry Res, 241 : 61-65, 2016.
*** Hawkins JM, et al : Int J Psychiatry Med, 25 : 345-369, 1995.
松崎朝樹 精神診療プラチナマニュアル 第3版 p66-67